東京商工リサーチの集計によると、ソフトウェア開発やホームページ制作などを手がける情報サービス業の倒産は、2021年の137件を底に増加へ転じ、2025年は276件、2026年上半期は166件と2017年以降で最多となった。DX特需や人材の売り手市場が語られる一方で、ノーコード・生成AIによる内製化が進み、価格競争に依存する小・零細の受託事業者が静かに淘汰されている。
調査概要
情報サービス業とは、受託ソフトウェア開発やシステム保守、ホームページ制作などを担うIT企業群を指す。その倒産は、リーマン・ショック前後の2008〜2010年に年330件超のピークを付けたあと長く減少し、コロナ禍の資金繰り支援が効いた2021年に137件まで沈んだ。ところがそこが底だった。2022年145件、2023年229件、2024年261件、2025年276件と4年連続で増加し、いまやリーマン期の水準を再び視界に捉えつつある。人手不足やDX投資でIT業界は活況と言われるなかで、なぜ倒産だけが逆行するのか。次のグラフで、底からの反転を切り取る。
コロナ禍の資金繰り支援(実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」など)が倒産を抑え込んだ2021年、情報サービス業の倒産は137件と集計上の底を付けた。だが2022年145件でわずかに反発すると、2023年には229件へ一気に跳ね上がる。以降も261件(2024年)、276件(2025年)と伸び、底からの4年間で139件・約2倍に膨らんだ。しかも2026年に入っても勢いは衰えず、上半期だけで166件と2017年以降の同期で最多を記録している。単なるコロナ反動では説明しきれない増え方だ。背景には何があるのか。
東京商工リサーチは要因として、ノーコード・ローコード開発ツールや生成AIの普及を挙げる。以前は外注していた簡易なホームページ制作やコンテンツ作成、小規模なシステム開発を、発注側が自社内で完結できるようになり、価格競争に依存してきた小・零細の受託事業者ほど受注を失いやすい。実際、2026年上半期の倒産166件のうち、負債1億円未満が88.5%、従業員5人未満が81.3%を占め、淘汰は明確に零細層へ集中している。IT技術の進歩そのものが、IT企業の一部を退出させるという逆説が起きている。
情報サービス業の倒産だけが特殊なのか。倒産全体(全業種)と並べて比べると、答えは半分イエスだ。ゼロゼロ融資の効果で全国の倒産も2021年に底を打ち、その後は同じように増えている。しかし2021年の底を100とした指数で見ると、2022年はほぼ横並びだったのに、2023年から差が開き始める。2025年時点で全国全業種が171(6,030件→10,300件)まで戻ったのに対し、情報サービス業は201(137件→276件)に達した。IT業界の倒産は、全国平均より速いペースで増えている。景気の追い風というより、業界固有の構造変化が働いていることを示している。
2つの系列はいずれも東京商工リサーチの倒産集計(負債1,000万円以上)だが、全国全業種はすべての産業を含む母集団、情報サービス業はそのごく一部の業種であり、規模がまったく異なる。そのままの件数では比較しづらいため、底の2021年を100とする指数で回復(増加)ペースを揃えた。読み取れるのは「IT業界だから倒産が少ない」という通念とは逆の姿だ。ただし退出のかたちは倒産だけではない。2025年の情報サービス業は倒産276件に対し、休廃業・解散が3,014件(前年比+20.8%)に上る。多くの受託事業者は、倒れる前に静かに看板を下ろしている。
| 年 | 年間 | 1〜6月(上半期) |
|---|---|---|
| 2007 | 230 | 109 |
| 2008 | 330 | 149 |
| 2009 | 315 | 156 |
| 2010 | 333 | 172 |
| 2011 | 321 | 169 |
| 2012 | 323 | 182 |
| 2013 | 303 | 156 |
| 2014 | 239 | 135 |
| 2015 | 228 | 116 |
| 2016 | 198 | 91 |
| 2017 | 212 | 119 |
| 2018 | 222 | 116 |
| 2019 | 239 | 112 |
| 2020 | 171 | 87 |
| 2021 | 137 | 67 |
| 2022 | 145 | 70 |
| 2023 | 229 | 101 |
| 2024 | 261 | 120 |
| 2025 | 276 | 140 |
| 2026 | — | 166 |
2026年上半期の166件は、前年同期(140件)を18.6%上回るペースだ。このまま推移すれば通年は330件前後と、リーマン・ショック直後(2008年330件)に並ぶ水準が視野に入る。観測点は2つ。生成AIの業務実装がさらに進むなかで、単価競争に依存する小・零細の受託が持ちこたえられるか。そして、倒産に至らず休廃業を選ぶ「静かな退出」がどこまで広がるか。IT業界の内部で起きている構造転換は、発注する側の企業にとっても、外注先の選定・与信を見直す論点になる。次回の年間確定値(例年1月公表)が答え合わせになる。
※出典:東京商工リサーチ「2026年上半期『情報サービス業』倒産 166件 過去10年で最多 小・零細規模の淘汰が加速へ」(2026年7月公表)。対象はソフトウェア開発・受託開発・システム保守・ホームページ制作等を手がける情報サービス業の倒産(法的・私的整理/負債1,000万円以上)。年間倒産件数は2021年137件(集計上の底)→2025年276件(4年で約2.0倍)、2026年上半期は166件で2017年以降の同期で最多。2026年上半期の内訳は負債1億円未満88.5%・従業員5人未満81.3%・資本金1千万円未満107件。参考として2025年の情報サービス業は倒産276件に加え休廃業・解散が3,014件(退出計3,290件・前年比+20.8%)。グラフ③の全国全業種は同社「全国企業倒産状況」の暦年確定値(2021年6,030件→2025年10,300件・負債1,000万円以上)を2021年=100として指数化したもので、両系列は母数(対象業種の範囲)が異なる同一機関の別集計であり、単純な件数比較ではなく増加ペースの比較として提示している。
本記事のグラフ・数値・データ表は、出典として本記事へのリンク(「出典:DataSlide」+記事URL)を明記いただければ、ブログ・資料・SNS等で自由に転載いただけます。事前連絡は不要です。

