紛失防止タグ(落とし物防止タグ)が使われたストーカー事案の相談等件数は、2021年の3件から2025年は679件へ、4年で226倍に増えた(警察庁「令和7年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について」)。同じ2025年、専用のGPS機器等を使った事案は511件で、タグが初めてGPS機器等を上回った。タグを規制対象に加えるストーカー規制法の改正が施行されたのは、その2025年12月30日である。
調査概要
紛失防止タグは、鍵や財布に付けておくと置き忘れた場所をスマートフォンから探せる、数千円の小さな製品である。警察庁の集計では、このタグがストーカー事案で使われたとして寄せられた相談等の件数は、2021年に3件だった。それが2022年113件、2023年196件、2024年370件と増え続け、2025年には679件——4年で226倍になった。
同じ期間、ストーカー事案の相談等件数そのものは19,728件から22,881件へ16%増えたにすぎない。タグだけが桁違いの速さで伸びている。次のグラフで、直近の伸び方を拡大して見る。
2023年196件、2024年370件、2025年679件。2年で3.5倍、直近1年に限っても+309件と、増加のペースそのものが上がっている。伸びが一時的なぶれでないことは、5年間一度も前年を下回っていないことからも分かる。
この増え方は、タグそのものの普及と重なる。家電量販店やネット通販で誰でも数千円で買え、専門知識も契約も要らない。加害の道具のハードルが下がったということである。
従来、相手の居場所を無断で把握する手口には、車両に取り付けるGPS発信機のような専用機器が使われてきた。購入先が限られ、月額の通信契約が必要な製品も多い。紛失防止タグは、その前提をすべて崩した。手のひらに収まる大きさで、電池は1年もち、持ち主のスマートフォンではなく街中を通行する他人のスマートフォンを中継して位置が伝わる。鞄の底やコートのポケット、車のシートの隙間に入れられれば、当人はまず気づかない。メーカー側は不審なタグを検知して警告する機能を年々強化しているが、統計の上では被害の相談は増え続けている。
2本の線を重ねると、この4年に起きたことがはっきりする。GPS機器等を使った事案は2021年152件から2023年486件まで増えたあと、2024年513件、2025年511件とほぼ横ばいに入った。一方で紛失防止タグは止まらず、2025年に679件でGPS機器等を追い越した。位置情報を無断で取得するストーカー事案の合計は155件から1,190件へ7.7倍に増えており、その増加分のほとんどをタグが押し上げている。
つまり、この4年は追跡の総量が増えただけでなく、道具が日用品に置き換わった4年でもあった。ストーカー事案の相談等件数に占める割合で見ると、位置情報型は0.8%から5.2%へと6.6倍になっている。
グラフの数字は被害の実数ではなく、警察に寄せられた相談等の件数である。タグを使った追跡は当人が気づきにくいため、実際の件数はこれより多い可能性がある。逆に、メーカーの不審タグ検知機能やニュース報道によって「見つけられるようになった」ぶんが件数を押し上げている面もある。増加の何割が実態の増加で、何割が発見率の向上なのかを、この統計だけで切り分けることはできない。それでも、GPS機器等が横ばいに入る一方でタグだけが伸び続けているという二系列の差は、道具の置き換わりが起きたことを示している。なお警察庁は2025年について、第三者に依頼して被害者の所在地を特定する行為の相談等も14件把握したとしている。
| 年 | 紛失防止タグ | GPS機器等 | 位置情報型 合計 | ストーカー事案 相談等件数 | 位置情報型の 割合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2021(R3) | 3件 | 152件 | 155件 | 19,728件 | 0.8% |
| 2022(R4) | 113件 | 404件 | 517件 | 19,131件 | 2.7% |
| 2023(R5) | 196件 | 486件 | 682件 | 19,843件 | 3.4% |
| 2024(R6) | 370件 | 513件 | 883件 | 19,567件 | 4.5% |
| 2025(R7) | 679件 | 511件 | 1,190件 | 22,881件 | 5.2% |
出典:警察庁「令和7年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について」(令和8年3月19日公表)。紛失防止タグ・GPS機器等の件数は同資料トピックス②「紛失防止タグ等が用いられたストーカー事案の相談等件数の推移」による。GPS機器等の件数は、同資料の行為形態別集計(ストーカー規制法第2条第3項第1号「承諾を得ないで位置情報を取得」+第2号「所持する物にGPS機器等を取り付ける」)の合計と全年一致する。「位置情報型の割合」はストーカー事案の相談等件数に対する割合で、公表2値をもとに編集部が算出した参考値(原典未記載)。複数の行為形態に該当する事案はそれぞれ計上されている。
紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得等がストーカー規制法の規制対象に加わったのは、2025年12月30日施行の改正法である。統計にタグが現れたのは2022年だから、法律はデータに4年遅れて追いついたことになる。次に見るべき観測点は3つ。改正法が丸1年適用される2026年の件数が減るのか、それとも表面化がさらに進んで増えるのか。横ばいに入ったGPS機器等が減少に転じるのか。そして、規制の外側にある手口——2025年に14件把握された第三者への依頼のような形——がどれだけ現れるのか。次回の公表は2027年3月ごろの見込みである。手のひらに収まる小さな道具が、統計上どこまで足跡を残すのかを見続けたい。
※出典:警察庁「令和7年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について」(令和8年3月19日公表・生活安全局人身安全・少年課)。紛失防止タグ・GPS機器等の件数は同資料トピックス②の図による。ここでいうGPS機器等とは位置情報を記録・送信するものを指す。数値はいずれも警察に寄せられた相談等の件数であり、被害の実数ではない。複数の行為形態に該当する事案はそれぞれ計上されている。ストーカー規制法は令和3年8月26日施行の改正で位置情報の無承諾取得等が規制対象となり、令和7年12月30日施行の改正で紛失防止タグを用いた位置情報の無承諾取得等が新たに規制対象に追加された。倍率・増減・構成比は公表値をもとに編集部が算出した。
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